2026年3月20日、発売直後の大型オープンワールドRPG『Crimson Desert』(開発:Pearl Abyss)が、思わぬ形で世界中のゲーマーとクリエイターの怒りを買うことになりました。
ゲーム内の絵画や肖像画に生成AIで作られたとみられるアセットが大量に混入していると指摘され、Reddit・Bluesky・Xで炎上が拡大。
GameSpot・Kotaku・IGNなど主要メディアが相次いで報道し、日本でも「ゲームにまでAIか…」という反応が広がっています。
この記事では、事件の経緯・批判の構造・そしてクリエイターとして押さえておくべき論点を整理します。
何が起きたのか──発見から炎上までの流れ
『Crimson Desert』は韓国のゲームスタジオPearl Abyssが長年開発してきた期待作で、2026年3月19日にリリースされました。
発売24時間で200万本を売り上げるほどの注目作でしたが、発売翌日から雲行きが変わります。
Redditユーザーの「Rex_Spy」が、ゲーム序盤に登場するOakenshield Manorの館内に飾られた絵画の画像を投稿。
その絵には馬の脚が5本以上あり、人間と馬が混在した解剖学的にありえない描写が含まれており、「これはAIが生成した典型的なエラーだ」と指摘しました。
続いてBlueskeyユーザーの「Lex Luddy」が別の絵画を共有。
戦闘シーンを描いたとみられるその絵は、顔のない人物・首のない馬・奇妙に融合した人馬像が描かれており、一目でAI生成特有の破綻が見て取れる内容でした。
TheGamerのライターHarry Alston氏は150時間以上プレイした経験から調査を行い、「Oakenshield ManorからMarni’s Houseまで、ほぼすべての館の壁にAI生成とみられる絵画が存在する」と報告。

ゲーム内の複数ロケーションにわたる組織的な使用であることが明らかになっていきました。
批判が燃え広がった2つの理由
今回の炎上が単なる「AIアートの品質問題」にとどまらず、大きな反発を呼んでいる理由は主に2点あります。
① Steamでの「無開示」がルール違反にあたる
Valveは2024年から、ゲームのSteamストアページに生成AIの使用を開示することを義務づけています。
しかし炎上発覚時点でCrimson DesertのSteamページには、そのような記載が一切ありませんでした。
Valveのルールは開発者自身による自己申告制であり、罰則の強制力は弱いとされています。
それでも「ルールを知っていて開示しなかった」のか、「うっかり忘れていた」のかによって、ユーザーの受け取り方は大きく異なります。
Pearl Abyssは今のところノーコメントを続けており、沈黙が火に油を注いでいます。
② 「高品質な外見」と「AI素材の混在」の落差
Destructoidのレビュアーは「ビジュアルとしては息をのむほど美しいゲームだ」と評価しつつ、AI生成アセットの混入に失望を示しています。
つまり全体の品質は高いのに、一部だけAIで手を抜いたという構図が、より強い裏切り感を生んでいます。
「丁寧に作られた作品の中に安易なAI素材が紛れ込んでいる」という状況は、鑑賞者・プレイヤーの没入感を壊す「イマーシションブレイカー」として機能します。

ゲーム体験全体の評価を下げる影響力を持つ問題です。
「AIスロップ」という言葉が示す業界の空気
今回の騒動で飛び交ったキーワードのひとつが「AIスロップ(AI Slop)」です。
これは「クオリティの低いAI生成コンテンツ」を指す俗語で、2025年ごろから英語圏のクリエイティブ界隈で広まっています。
ゲーム・映像・イラスト分野のクリエイターたちの間では、「生成AIはコスト削減の道具として使われ、人間のアーティストの仕事を奪う」という不満が蓄積しています。
今回の件はその象徴的な事例として受け取られており、単なるPearl Abyssへの批判を超え、ゲーム業界全体のAI利用姿勢への問題提起として拡散しています。
なお昨年(2025年)にも、フランスの注目作『Clair Obscur: Expedition 33』で同様の問題が発覚しています。
開発元のSandfall Interactiveは「AI生成アセットは仮のプレースホルダーとして使ったもので、QAプロセスで取り除き忘れた」と説明して謝罪しました。

今回のCrimson Desertも同様の経緯である可能性はありますが、現時点でPearl Abyssからの説明はありません。
クリエイターとして考えるべき本質的な問い
今回の炎上は、AIを活用するすべてのクリエイターにとって他人事ではありません。
以下の3つの論点が浮かび上がります。
① 「使う・使わない」ではなく「開示するかどうか」が問われる時代
生成AIをクリエイティブ制作に活用すること自体は、今やごく一般的になっています。
問題の核心は使用の有無ではなく、透明性の欠如にあります。
消費者・クライアント・プラットフォームが開示を求めている以上、使用したなら明示することが信頼維持の前提条件です。
② 品質チェックの責任はAIではなく人間にある
「プレースホルダーを消し忘れた」という説明が事実だとしても、最終的な品質管理の責任は人間にあるという原則は変わりません。
AIを使うかどうかに関わらず、リリース前のチェック体制が問われます。
③ 受け手の「AIアレルギー」はまだ根強い
技術的には問題のないAI活用であっても、受け手がどう感じるかは別問題です。
特にゲーム・映像・イラストといった「アーティストの表現」が価値の源泉となる分野では、AI使用への感情的な反発が購買意欲や評価に直結するリスクがあります。
「使えるから使う」だけでなく、「どう伝えるか」まで含めた戦略が求められます。
まとめ:AI活用は「使い方」より「伝え方」の時代へ
今回のCrimson Desert騒動から見えてくる構図を整理します。
- 発売直後の大作ゲームで、AI生成とみられるアセットが複数箇所で発見された
- Steamの開示ルールに違反している可能性があり、Pearl Abyssはまだノーコメント
- 「AIスロップ」という言葉とともに、業界全体のAI利用への反発が再燃している
- 問題の本質は「AIを使ったこと」ではなく「透明性の欠如」にある
AIツールが当たり前になった今、「使う技術」と「伝える誠実さ」の両方を持つクリエイターが信頼を勝ち取る時代に入っています。

技術の習得と同時に、AIとどう向き合うかという倫理観を磨くことが、これからのクリエイターに求められる本質的なスキルと言えるでしょう。
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